芝生には思っているよりずっと多くの品種があり、実際に庭へ導入されているのは数種類に絞り込まれています。選び分けの軸は難しくはありません。「どれくらい伸びるか」と「何に弱いか」の2つです。ところが品種の紹介ページはたいてい「手入れが楽」「美観が高い」という定性表現だけで終わり、伸びる速さを同じ物差しで並べたページは見当たりません。このページでは日本芝4品種の比較表をつくり、伸長の実測値をmm/日と1cm到達日数へ換算した当サイト計算の列を加え、休眠が始まる温度帯から選び分ける考え方を示します。なお月別の芝刈り回数や刈り高さの帯、品種別の金額・施工費の相場、販売規格の諸元、芝張りの手順と適期月は、それぞれを専有するページが持っているのでここでは繰り返しません。

まず大きな分け目です。マイナビ農業の解説では、夏の暑さに強く冬に休眠する「日本芝」と、涼しい気候を好み冬でも緑を保つ「西洋芝」の2つに分け、具体的な品種名として日本芝に高麗芝とTM9、西洋芝にクリーピングベントグラスとケンタッキーブルーグラスを挙めています。一般家庭の庭で候補になるのはほぼ日本芝です。日本の高温多湿に耐え、管理も楽なため、庭の芝生として最も広く使われてきました。ただし西洋芝の品種名を知っておくと、資材や薬剤の適合を確認するときや、近所の庭の正体を見分けるときに役立ちます。

日本芝は暖地型芝生のグループに入り、生育温度は23〜35°C。春から秋にかけて成長し、気温が23°C以下になると休眠して茶色くなります(日本の庭づくり/芝生ガーデニング)。この「23°C」という数値が品種選びの最初の分岐になります。庭の位置が暖地向きなのか、それとも寒さへ耐えうる品種を選ぶべきなのかを、体感ではなく温度で決められるからです。

日本芝4品種の比較表(出典:日本の庭づくり|園芸解説の表を逐字で転記)
種類生育地域メンテナンス葉質耐踏圧性耐陰性
野芝東北より南の地域簡単葉の幅は広い・葉の密度は荒い強い強い
高麗芝関東より南の地域簡単葉の幅は細い強い強い
姫高麗芝関東より南の地域普通葉の幅は非常に細く繊細強い強い
TM9関東より南の地域簡単草丈が短い・葉の緑色が濃い強い強い

表の並びを噛み砕くと、野芝だけ「葉が荒く・生育域が東北より南」で、ほかの3品種は関東より南に揃います。つまり北海道や東北北部では、暖地型の日本芝そもそもが育ちません。同じ出典も「北海道などの寒冷地では暖地型の日本芝を育てることはできない」としています。もう1つ、高麗芝に限定すると生育温度は25〜30°Cとややせまく示され、「夏でも気温が低い北海道や東北北部では育てることができない」と書かれています。寒い地域ほど候補が絞られるため、温度帯は最初の判断材料になります。

次に「伸びる速さ」です。多くのページは TM9 について「草丈が半分しか伸びない」、高麗芝について「伸びにくい」という定性表現で止まります。同じ物差しで並べたページがないので、栃木県宇都宮市の施工店が自家の芝生を測った実例を換算して使います。同じ日に測った3週間分の伸びは TM9 が3cm、高麗芝が5cmでした。これを1日あたりへ割り直し、さらに1cm伸びきるまでの日数を当サイトで計算すると次のようになります。

伸長の実測を換算した比較(実測値の出典は宇都宮市の施工店、mm/日と1cm到達日数は当サイト計算)
品種3週間の伸び(出典実測)1日あたり(当サイト計算)1cm到達までの日数(当サイト計算)
TM93cm1.428571mm/日7.0日
高麗芝5cm2.380952mm/日4.2日

速度の比は 1.428571÷2.380952=0.600で、この実測では TM9 は高麗芝の6割の速さで伸びます。出典側の「半分しか伸びない」という言い方は定性のいい回しで、このページでは出典の言い分けとして書き、当サイト計算の倍率とは分けてあります。どちらの物差しでも「管理の手間は伸びる速さに比例する」点は同じで、刈り込みの頻度を下げたいほど TM9 や姫高麗より低い伸びを選ぶ発想が有利になります。実際のところ、高麗芝より伸びが控えめな TM9 でも、まったく刈らなくてよいわけではありません。

TM9 の出自は、トヨタ自動車(トヨタルーフガーデン)が高麗芝を品種改良して2008年に登場させた省管理型のコウライシバです。公式の栽培マニュアルは、省管理では草丈が低い特徴を生かして芝刈り回数を減らせ、施肥量も減らせると説明しています。一般のコウライシバへ切り戻すわけではない点に注意で、同じマニュアルは高レベル管理では施肥・芝刈り回数・その他の管理頻度が一般のコウライシバと同様になる場合があるとしています。省管理の基準として示されている年間施肥量は窒素成分で N7g/㎡、窒素10%の化成肥料なら年間70g/㎡です。この数値はTM9の省管理の考え方として出典から持ってきたもので、一般的な家庭の年間施肥量の話ではありません。

TM9 の年間芝刈り回数をめぐる言い分(出典を並べる・単一の値にしない)
出典言い分
グリンとグリーン(芝生生産者へのインタビュー)他の芝生が年15回だとすると TM9 は年3回でOKと言われています
blog-town(自家の10年管理)景観をそこそこに維持するなら年に2〜3回で十分、他説として3〜5回も紹介
家づくり百貨年に1〜2回程度で済むこともあります
トヨタ公式マニュアル回数は明記せず、高レベル管理では一般のコウライシバと同じ扱いになり得る、出穂後は生育に応じて月に1〜4回
マイナビ農業品種横断の目安として日本芝は年15〜20回

同じ品種なのに回数が5通りに分かれるのは、前提がちがうからです。家庭の管理レベル、芝を見る目の許容範囲、施肥量、地域で伸び方は変わるため、ある1社の実例はほかの庭の回数になりません。このページでは中央値をつくらず幅のまま出典名と並べ、判断の材料に留めます。なお野芝について「年間で10〜15回ぐらい芝刈りしないと美しい芝生のお庭は維持できません」と生産者が話す記事と、品種横断の目安として日本芝に 15〜20回 を置く記事がありますが、両者は母集団が違うので混ぜず両論を並べています。

姫高麗芝の強弱についての言い分(同一ページ内で断定しない)
出典姫高麗芝についての記述
日本の庭づくり(園芸解説)表で耐踏圧性・耐陰性を「強い」とする。ただし葉の幅が2mm以下と細く、低刈りに耐え、病害虫の被害に遭いやすいとも記載
グリンとグリーン(生産者インタビュー)乾燥と踏圧に弱く、過湿や害虫に強くないとし、ちょっと華奢という感じは否めませんと評価

姫高麗芝の強弱はこの2つで正反対に割れています。園芸解説の表は「強い」、生産者は「弱い」と言っているという読み方だけがこのページにはあります。判断するのは訪問者側でよいため、出典名を書いた上で両論を並べ、どちらかを当サイトの見解としては書きません。葉幅が2mm以下で低刈りに耐える細かさという点は一致しているので、美観を求める庭向けの品種という位置づけまでは共通しています。

  • 黒い穂が出る

    TM9 は春と秋に黒い穂が出ます。穂から先祖返りすることがあり、戻った先も高麗芝なので一般的な芝生です(グリンとグリーン)。コウライシバはイネ科で、稲と同様に茎葉の先端に穂が出て、開花・稔実すると種子になります(トヨタ公式マニュアル)。

  • 出穂後に刈る理由

    公式マニュアルは、出穂後に刈り取ることで肥料成分が種子に吸収されるのを防げ、異品種の発生を防ぐ効果もあると説明しています。省管理では5〜6月の出穂が終わったタイミングで芝刈りを行います。

  • 野芝の実使用領域

    野芝は見栄えより強さの芝で、道路脇の法面緑化やゴルフラフ、河川敷に使われる例が生産者インタビューに挙がります。家庭の観賞用としては密度の粗さが敬遠されがちです。

選び方の分岐を文章にすると次のようになります。寒地や北海道なら暖地型日本芝は選択肢から外れ、東北より南で管理の手軽さを最優先するなら野芝、最も普及した無難な選択は高麗芝、見た目の細かさと芝刈りの軽さを両立させたいなら TM9、低刈りの美しさを求めて管理の手間も引き受けられるなら姫高麗芝です。伸びる速さと温度帯は上記の表と計算列、回数と強弱は出典併記のまま幅で持っており、この幅は地域・施肥・日照でも動きます。

品種を決めたら、次は面積と必要枚数、手入れの段取りになります。芝の規格と販売判型は一覧にまとめてあり、施工の手順と初期管理は別のページが持っています。月別の手入れ回数と時期はカレンダーへ、維持費の内訳は計算機へ譲ります。芝刈りの頻度を自分で決めたいときは刈り高さと作業時間をまとめたページが次の入口になります。

  • 当サイト計算

    mm/日への割り直し(30÷21=1.428571、50÷21=2.380952)、1cm到達日数(10÷速度=7.0日・4.2日)、速度比0.600は出典の実測値からの当サイト計算で、出典に同じ形の表はありません。

  • このページで扱わない内容

    月別の芝刈り回数と刈り高さの帯、季節別の施肥量とg/㎡の計算、一度に刈り詰めすぎるときの目安、品種別の金額・施工費・維持費、販売規格の寸法、芝張り適期と施工諸元は、それぞれを専有するページから内部リンクで辿るようにしています。

  • 伝聞で掲出した主張

    姫高麗芝の強弱、TM9の年間回数、野芝の10〜15回、草丈が「半分」という言い方は、すべて出典名つき・断定を避けた形で書いています。

関連ページへの入口をまとめておきます。月別の手入れ回数と刈り込みの間隔の目安は芝生の手入れカレンダー、販売判型と寸法は天然芝の規格データ一覧、必要枚数は芝生の必要枚数計算、施工と初期管理は芝生の張り方、維持費は芝生の年間維持費計算機、散水は芝生の散水量計算機が持っています。品種を決めたあとは、この順で面積・枚数・費用へ進めると迷いません。