「木1本が吸収するCO₂は何kgか」と調べると、8.8kgや38.5kg、胸高直径から求める式などが出てきます。これは必ずしも資料の食い違いではありません。森林の平均的な1本を表す値と、都市の樹木を大きさから推定する式、計画上の算定に使う係数では、対象と目的が違います。緑化基準の3%や20%も、同じ敷地面積に掛けるとは限りません。このページは、数値を使う前に出典・時間・単位・対象範囲を照合するための資料です。

まず、年間吸収量は一定期間に新たに取り込まれた量、蓄積量はある時点で蓄えられている量として読み分けます。また、Cは炭素の質量、CO₂は二酸化炭素に換算した質量です。林野庁の解説もこの違いと44/12の換算を説明しています。ここでは、その説明に加えて、単木の式・森林の例・計画上の係数・自治体の面積基準を横断して比較します。版が確認できる資料は年月を併記し、それ以外は公表資料名と対象条件で区別しています。本ページの更新日は、原資料の改訂日を意味しません。

出典別の適用範囲一覧(資料名とURLは末尾の参考資料に掲載)
出典・版または対象資料時間とC/CO₂の区別1本・面積の基準樹種・直径・地域などの条件使える用途と限界
国総研『都市緑化樹木のCO2固定量の算出』の公表式1年間の木質部増加に相当するkg-CO₂樹木1本あたり・年都市緑化樹木7樹種群。標本は胸高直径9〜66cm、樹齢9〜52年幹・枝・根の固定量の推定。全樹種・全地域・全サイズで実測値を保証する式ではない
林野庁『森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?』のスギ人工林の例蓄積83t-C/ha≒304t-CO₂/ha。年間2.4t-C/ha=8.8t-CO₂/ha/年森林の林地1haあたり。1,000本/haの仮定で1本へ換算適切に手入れされた36〜40年生スギ人工林。直径別の単木式ではない条件付きの森林平均との比較。庭木・芝生・樹冠面積の一律係数にはできない
林野庁『森林による二酸化炭素吸収量の算定方法について』年間の幹の材積成長量からCを経てCO₂へ換算同じ林分・面積・期間にそろえた成長量が基礎樹種・林齢等に応じた拡大係数、地下部比、容積密度等を使う森林の年間吸収量の算定手順。入力条件を省いた全国共通の1本係数ではない
国土交通省『低炭素まちづくり計画作成マニュアル 別冊』p.10、2012年インベントリ参照0.0385または0.0359t-CO₂/本/年計画上の都市緑化樹木1本あたり・年北海道以外と北海道を区別。胸高直径を個別に入力する式ではない当該資料の歴史的な計画算定係数。現在の普遍的な生物定数として使わない
鳥取市『緑化面積の算定方法のてびき』2008年6月3日、pp.1〜3面積と割合の行政基準。年間量・蓄積量・C/CO₂の区別は該当しない建築物・工作物の面積を除く基準敷地面積と、算定した緑化面積同資料の地域・手続きが対象。樹木は高木・中木・低木の区分3%と高木10㎡等のみなし面積を読む資料。全国の土地へ一律適用しない
豊島区『緑化基準の概要』2020年12月改訂必要な緑化面積の基準。CO₂吸収量を示すものではない地上部は敷地面積・建築面積・法定建ぺい率から求める基礎面積対象建築物・敷地規模・計画区分で20%・25%・35%等を区別地上部の必要面積の確認。屋上・接道部の基準とは分ける
豊島区『緑化計画指針』の算入条件緑化面積の認定方法。炭素量ではない植栽基盤等の条件に応じた算入面積草地のみの区域の扱い、高木1本あたり3㎡の植栽基盤の扱い等に条件がある何を緑化面積に数えられるかの確認。高木なら必ず3㎡とは限らない
豊島区『緑被率について』令和6年度調査調査時点の現況。年間吸収量でも最低基準でもない区全域に対する緑被面積165.71haの割合12.74%豊島区の調査区域・調査年度。樹木による被覆は構成要素の一つ区域の緑の現況把握。個々の敷地に課す緑化率と取り違えない

国総研の年間式は、Y=0.111×{(X+1.1)^2.6173−X^2.6173}です。Xは胸高直径(cm)、Yは1本あたりの年間CO₂固定量(kg-CO₂/本/年)を表します。対象とした7樹種群はクスノキ、シラカシ、マテバシイ、ケヤキ、イチョウ、プラタナス類、サクラ類です。標本の胸高直径9〜66cm・樹齢9〜52年という範囲を確認し、苗木や大径木、条件の異なる地域や樹種への外挿は慎重に扱ってください。対象は幹・枝・根の木質部で、光合成による取り込み全体や庭のすべての炭素の出入りを測る式ではありません。

係数0.111には、木質部から炭素量を求め、CO₂へ換算する処理が既に含まれています。計算結果へ改めて炭素率50%や44/12を掛けると二重換算になります。胸高直径20cmを代入した年間値は約42.45kg-CO₂/本/年です。これはモデルによる推定値であり、その木が必ず毎年その量を吸収するという測定結果や保証ではありません。

複数年の値は公表された年間式と区別します。当サイトの0.111×{(X+c×N)^2.6173−X^2.6173}は、現在の胸高直径Xから毎年c cmずつ太くなると仮定し、N年間の増分を積み上げた式です。公表された蓄積量の式でも、植えてから現在までの生涯蓄積量でもありません。X=20cm、c=1.1cm/年、N=10年なら約606.34kg-CO₂/本となります。直径が変わるため初年の42.45kgを単純に10倍した値とは異なりますが、一定成長の仮定が現地で成立することを示すものではありません。

胸高直径を測った庭木の条件付き推定には植樹CO₂吸収量計算機を使えます。入力時には本数だけでなく太さの違いを確認し、樹種や生育環境が異なる木を同じ1本としてまとめないことが大切です。年数を延ばすときは、途中の直径や樹齢が標本範囲を外れないかも確認してください。

炭素・CO₂・面積の単位換算と、換算後も変わらない意味
元の量換算読み方
炭素量CC×44/12=CO₂換算量炭素12に対してCO₂は44。年間値なら年間値、蓄積値なら蓄積値のまま
CO₂量CO₂×12/44=炭素量C逆向きの換算。既にCO₂単位の係数へ44/12を再度掛けない
質量と面積1t=1,000kg、1ha=10,000㎡t/haをkg/㎡へ直すには1,000を掛け、10,000で割る
林野庁の蓄積83t-C/ha83×44/12≒304t-CO₂/haその時点の蓄積。年あたりの吸収量には変わらない
林野庁の年間2.4t-C/ha2.4×44/12=8.8t-CO₂/ha/年年間の吸収量。蓄積83t-Cを樹齢で割った値ではない
森林の年間8.8t-CO₂/ha8.8×1,000÷10,000=0.88kg-CO₂/林地㎡/年林地面積あたりの単位換算。樹冠㎡や芝生㎡の吸収係数にはならない

林野庁のスギの例は、適切に手入れされた36〜40年生の人工林を対象としています。1haに1,000本あると仮定すれば、蓄積83t-C/haは1本あたり83kg-C、年間8.8t-CO₂/haは1本あたり年間8.8kg-CO₂になります。83と8.8は質量の種類も時間の意味も違い、数字の大小だけでは比べられません。さらに、この年間値は5年刻みの林齢区分の差から年間成長量を求める考え方に基づきます。現在の蓄積を36年や40年で割って、今の年間吸収量とする計算ではありません。

林野庁の森林算定方法を要約すると、年間の幹の材積成長量×拡大係数×地下部を含める係数×容積密度×炭素含有率×44/12です。地下部を含める係数は、地下部/地上部の比をRとしたときの(1+R)に当たります。幹だけの成長量を枝・根を含む乾燥重量、炭素量、CO₂量へ順に直すため、成長量の対象面積と期間をそろえる必要があります。係数は出典の樹種・林齢等の条件に対応させてください。国総研の説明にある炭素率50%と、林野庁のスギの例にある51%を、都合よく一つの値へ統一してはいけません。

年間排出量との規模比較では、同じ1年間のCO₂吸収量を使います。樹木本数換算計算機で本数を比べる際も、森林平均と胸高直径別の推定を別の条件として読んでください。既に蓄えられた炭素量との比較は、年間の相殺に必要な植樹本数を意味しません。また、林地1haを1,000本で割った10㎡/本はこの例の密度から得る面積で、1本の樹冠面積や行政上のみなし緑化面積とは別です。

国土交通省の『低炭素まちづくり計画作成マニュアル 別冊』p.10には、都市緑化の年間算定係数として北海道以外0.0385t-CO₂/本/年、北海道0.0359t-CO₂/本/年が示されています。kgに直すとそれぞれ38.5kgと35.9kgです。脚注では2012年のインベントリにある0.0105t-C/本と0.0098t-C/本を44/12でCO₂へ換算しており、後者は丸めを含みます。この数値は当該資料の計画・集計上の係数として扱い、現在のすべての庭木が吸収する一定量と説明しないでください。別の版や制度の計画へ使う場合も、その版の採用方法を確認する必要があります。

緑化面積の話では、炭素の単位換算より先に「何に対する割合か」を確かめます。次表のSは敷地面積、Bは実際の建築面積、Wは工作物の築造面積、rは法定建ぺい率を小数で表した値です。たとえば60%ならr=0.6とします。min(a,b)はaとbの小さいほうを採るという意味です。豊島区の式は地上部の必要緑化面積に限った整理であり、屋上や接道部の基準を含みません。

自治体別に異なる分母・基礎面積(すべての敷地に一律適用する表ではありません)
資料・区分分母または割合を掛ける面積必要面積または調査値適用時の確認
鳥取市のてびき(2008年6月3日)基準敷地面積=S−B−W必要緑化面積は基準敷地面積の3%以上同資料の地域・手続きにおける例。敷地全体の3%とも全国共通基準とも異なる
豊島区・一般建築物、敷地5,000㎡未満(2020年12月改訂概要)min(S−B, S−S×r×0.8)地上部は上記面積×20%対象建築物に該当するかを先に確認。敷地面積Sへ直接20%を掛けない
豊島区・一般建築物、敷地5,000㎡以上(同概要)min(S−B, S−S×r×0.8)地上部は上記面積×25%5,000㎡はこの一般建築物の率の区分。すべての手続きの要否を決める境界ではない
豊島区・総合設計制度等の対象(同概要)S−B地上部は上記面積×35%一般建築物の20%・25%の式と混ぜず、計画区分を確認する
豊島区・令和6年度の緑被率調査区全域の面積緑被総面積165.71ha、緑被率12.74%区域の現況を表す実測値。建築敷地の必要緑化面積の下限ではない

豊島区の概要には、新築・改築・増築に係る床面積が商業地域で800㎡以上、それ以外で600㎡以上となる例や、地上3階以上かつ住戸数15戸以上の集合住宅の例など、対象となる条件が示されています。ここに挙げた条件は網羅的な判定表ではなく、すべての敷地へ20%を課すものでもありません。対象行為・用途・規模・計画区分を確認し、届出や計画に使うときは最新の資料と窓口で現在の適用を確かめてください。

分母が決まっても、分子に何を数えるかは別の確認事項です。鳥取市のてびきの高木10㎡・中木3㎡・低木1㎡/本は、所定の区分で面積を算定する行政上のみなし値です。一方、豊島区の緑化計画指針には、高木の植栽基盤について1本あたり3㎡として扱う規定があり、鳥取市の高木10㎡と同じ規則ではありません。豊島区では草地のみの区域の一部を緑化面積に算入できない条件もあるため、芝生ならすべて算入できる、高木なら必ず3㎡認められる、といった読み方は避けてください。

枝張りから実際の投影面積を整理するには樹冠面積計算機が使えます。ただし、測った樹冠の広さと、手続きで認められる面積は必ずしも一致しません。鳥取市のてびきでは、樹冠同士や樹冠と地被植物などが重なる部分を重複して算出できないとされています。算入方法や重なりの扱いは、提出先の資料に沿って確認してください。

面積の内訳と目標との差を整理する際は緑化率計算機を補助として使えますが、計算結果だけで自治体の基準への適合は判定できません。使う分母と算入条件が一致するかを先に確認し、豊島区のminを使う地上部の式や屋上・接道部の条件まで一律に処理する道具とは考えないでください。なお、豊島区の実測緑被率12.74%には樹木による被覆以外の構成要素もあり、区の樹冠面積だけを表す数値ではありません。

似た数値を同じ意味にしないための比較表
誤って同一視しやすいもの同じではない理由正しい扱い
83kg-C/本の蓄積=8.8kg-CO₂/本/年の吸収CとCO₂、ストックと年間増分の両方が違う質量を換算しても時間の区別は残す。蓄積で年間排出量を相殺したとしない
蓄積量÷樹齢=現在の年間吸収量過去の平均と現在の成長は違う対象期間の成長量を使う。林野庁の例は5年刻みの林齢区分の差が基礎
国総研の多年増分=公表された生涯蓄積量当サイトが現在の直径から一定成長を仮定して積み上げた値計算開始時点からのN年間の推定増分と明記する
0.88kg-CO₂/林地㎡/年=樹冠や芝生1㎡の吸収量分母の面積の定義と生物の対象が違う森林条件を保った面積換算に限る。庭の被覆面積へ転用しない
38.5kg-CO₂/本/年=どの木でも吸収する量歴史的な計画算定係数で、個々の直径を反映しない資料の版と北海道の地域区分を添え、単木の生物モデルと分ける
高木10㎡または3㎡=実際の樹冠面積=吸収係数自治体の認定面積、実測の投影面積、炭素量は別の指標地域・区分・植栽基盤等の条件を残す。行政面積からCO₂量を直接導かない
緑化3%=地上部20%=実測緑被率12.74%割合の分母、対象手続き、計画値か観測値かが異なる基礎面積と算入対象をそろえずに厳しさや達成度を比べない
計算上の固定量=認証されたオフセット・クレジットモデルによる推定だけでは制度上の認証を伴わない認証量と表示しない。制度の対象・方法・審査等は別途確認する
  1. 目的を決める

    庭木の成長の目安、年間排出量との規模比較、自治体への緑化計画、区域の現況調査を分けます。CO₂量と緑の面積は、同じ目的を測る指標ではありません。

  2. 出典と条件を残す

    資料名・版・樹種・直径または林齢・地域・本数密度を記録します。数値だけを転記すると、単木と森林平均、古い計画係数の違いが分からなくなります。

  3. 単位と時間をそろえる

    CかCO₂か、kgかtか、1本か林地haか樹冠㎡か、年間かある時点の蓄積かを確認します。44/12や面積換算をしても、対象範囲と期間が一致しなければ直接比較できません。

  4. 制度上の確認を分ける

    緑化の届出は現在の自治体の基準で確認し、オフセットやクレジットは該当制度で別途確認します。このページの表と計算例は、認証や行政上の適合を証明するものではありません。

樹木の固定量は、木の中に炭素が残ることを前提にした推定です。伐採後の焼却や分解など、その後の扱いまで含めて排出の相殺を主張できるわけではありません。数値を報告するときは「この出典と条件で、この期間の増分を推定した」と範囲を示すことが、係数を細かく丸めることより重要です。