造園の見積書は、金額の合計だけを見ても何も分かりません。同じ100万円の工事でも、人工(労務費)が40万円なのか70万円なのかで、値引きの余地も、業者が社会保険に加入しているかも変わります。このページでは、見積書の行の意味を一つずつ解きほぐし、法定福利費が実際に何パーセントなのかを保険料率から合算し、値引きを求めてよい線と求めてはいけない線を、国土交通省の一次資料に沿って示します。数字の根拠はすべて出典を明記しています。金額そのものの試算は人工・日数から費用を積む計算機で行ってください。

まず前提として、造園の見積書には二つの書き方があります。材料費・労務費・経費を別々の行に並べる材工分離方式と、施工費を材料費に含めて材料名ごとに一行で書く複合単価方式(材工共)です。どちらが正しいという話ではなく、民間の造園・外構では材工分離方式が一般的で、官公庁の公共工事では材工共の単価が使われます。書き方が違うと、同じ工事でも行の数は大きく変わります。

材工分離方式と複合単価方式(材工共)の違い
見る場所材工分離方式複合単価方式(材工共)
行の書き方材料費・労務費・直接経費を別々の行に記載する施工費を材料費に含めて材料名ごとに一行で記載する
主に使う場面民間の造園・外構工事で一般的官公庁(公共工事)の積算で用いられる
「材工」の意味材料費と労務費を分けて書くので、この語は行に出てこない材料費+労務費。例として材料100万円+労務80万円=材工180万円
「手間」の意味労務費の行そのもの労務費だけを指す言い方
含まれないことがあるもの経費の行に明示される搬入・養生・撤去・廃材処分・夜間作業・下地補修は別途とされることがある
様式の法的な位置づけ法律で一律に定められた様式名ではない法律で一律に定められた様式名ではない

材工共という言葉は「どんな費用でも全部含む」という意味ではありません。コンクリート工事の見積書の解説も、道路舗装業者の材工分離方式の説明も、複合単価は施工費を材料に含めて書く方式だと整理したうえで、搬入費や養生費、廃材処分費は別途になる場合があると注意を促しています。材工共の行を見たら、その単価に何が乗っていて何が乗っていないのかを必ず確認してください。造園業者が見積書の「材工」と「手間」を解説した記事も、材工は材料費と労務費の合計、手間は労務費だけだと区別しています。

人工(にんく)は、職人が一日働いた単位のことです。見積書で「植栽 3.0人工」とあれば、延べ3人日分の労務費が計上されています。人工の数え方は数量に歩掛(ぶかかり)を掛けて求めます。歩掛とは、ある工事数量を仕上げるのに必要な人工数の基準で、国土交通省の積算基準や各団体の標準歩掛に工種ごとの値が定められています。造園工事の法定福利費の算定式でも、所要人工数=数量×歩掛、労務費総額=所要人工数の総和×労務単価、という順に積み上げます。人工単価の相場そのものは先に挙げた計算機の範囲なので、ここでは繰り返しません。

法定福利費は、見積書の中で最も誤解されている行です。健康保険・厚生年金・雇用保険の事業主負担分を労務費に上乗せしたもので、一般社団法人日本造園建設業協会が法定福利費の内訳を明示するための標準見積書-造園工事-作成手順書を平成25年9月20日から運用しています。この手順書が定めている範囲は次のとおりです。

造園工事の法定福利費|内訳明示の対象と対象外
区分取り扱い
内訳明示の対象となる人現場労働者(造園工・普通作業員・軽作業員・石工・運転手等)の事業主負担分
対象となる保険雇用保険料+健康保険料(40歳以上は介護保険料を含む)+厚生年金保険料(児童手当拠出金を含む)
労災保険料全額事業主負担だが、内訳明示の対象には含まれない
現場従業員・本店等従業員現場代理人や主任技術者、本店・支店等の従業員に係る法定福利費は内訳明示の対象とせず、別途諸経費の中で所要額を見積る
法人で常用5人以上雇用保険・健康保険・厚生年金の3保険を明示する
個人事業所で常用1〜5人未満雇用保険料のみを明示する
個人事業主・一人親方適用除外者。加入しているか分かる場合は含めず、分からない場合は全員加入を前提とする
算定方式率計算方式は採らず、労務費総額に事業主負担保険料率を掛けて求める

では、その事業主負担保険料率は実際に何パーセントなのか。造園の手順書も広島県の法定福利費を明示した見積書(標準見積書)の活用手引きも、率そのものは掲載していません。そこで協会けんぽの東京支部の令和8年度保険料額表と、厚生労働省の令和8年度雇用保険料率から、事業主負担分だけを拾って合算します。健保・介護・子ども・子育て支援金・厚生年金は労使折半なので総率の半分、子ども・子育て拠出金は折半せず全額事業主負担、雇用保険は建設の事業の事業主率を使います。

事業主負担保険料率の合算(令和8年度・協会けんぽ東京/建設の事業)
保険総率事業主負担分根拠
健康保険9.85%4.925%協会けんぽ 令和8年度保険料額表(東京)の半分
介護保険(40〜64歳)1.62%0.81%健保の介護込み11.47%から9.85%を引いた差の半分
子ども・子育て支援金0.23%0.115%協会けんぽ 令和8年度保険料額表の半分
厚生年金保険18.300%9.15%協会けんぽ 令和8年度保険料額表の半分
子ども・子育て拠出金0.36%0.36%折半しない。全額事業主負担
雇用保険(建設の事業)16.5/1,00010.5/1,000=1.05%厚生労働省 令和8年度の雇用保険料率。労働者負担は6/1,000
労災保険業種により異なる全額事業主負担内訳明示の対象外なので、ここでは率を示さない
合計(介護加入率100%)—16.41%4.925+0.115+0.81+9.15+0.36+1.05
合計(全員40歳未満)—15.60%介護分0.81%を引いた値
合計(介護加入率50%)—16.005%介護分を半分の0.405%で計上
労務費100万円あたりの法定福利費(事業主負担分)
現場の年齢構成事業主負担率労務費100万円あたり労務費300万円あたり
40〜64歳が全員加入16.41%164,100円492,300円
全員40歳未満15.60%156,000円468,000円
40〜64歳が半数16.005%160,050円480,150円

ここで注意が二つあります。一つ目は、適用除外者係数です。手順書は、個人事業主や一人親方が現場にいる場合、適用除外者係数T=1−(適用除外者数Nn÷現場労働者数N)を掛けて調整します。つまり一人親方が半数いる現場では、法定福利費は合算率の半分しか計上されません。二つ目は、労務単価には現場労働者自身が負担する社会保険料が既に含まれているという点です。事業主負担分はその上に別途乗るので、二重計上にはなりません。

労災保険料が内訳明示に入らない理由は、仕組みの違いです。健康保険・厚生年金・雇用保険は労使折半または労働者負担があり、事業主負担分を切り出して見積書に書けます。労災保険料は全額事業主負担で労働者負担分が存在しないため、労務単価の中に紛れても外に出しても金額が変わらず、内訳を明示する意味がありません。とはいえ全額事業主負担である事実は変わらないので、見積書に労災保険料の行が無くても手抜きではありません。

令和7年12月12日から、建設業法第20条が改正され、見積書の書き方に新しいレイヤーが加わりました。国土交通省の改正建設業法「令和7年12月施行分」説明会資料が示す内容は次のとおりです。

建設業法第20条|材料費等記載見積書のポイント
条文・項目内容
第20条1項材料費等記載見積書の作成は努力義務。記載事項は、工事の種別ごとの材料費・労務費・国土交通省令で定める不可欠な経費(これらを合わせて「材料費等」)と、その他必要な経費の内訳、そして工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数
第20条2項材料費等は、通常必要とされる費用に比べ著しく下回るものであってはならない
第20条6項注文者は、著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない
第20条7項国土交通大臣又は都道府県知事が、当該発注者に対して必要な勧告をすることができる
第34条2項中央建設業審議会が労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告する
施行日令和7年12月12日。令和7年12月2日の中建審総会で「労務費に関する基準」を作成・勧告
内訳を明示すべき経費法定福利費(事業主負担分)・安全衛生経費・建退共掛金
工事価格の構成イメージ労務費(法定福利費の個人負担分を含む)/材料費/内訳を明示すべき経費/その他経費(本社経費、利益等)
保存期間当初見積書・最終見積書を、目的物の引渡しから10年間保存する
公共工事令和7年12月12日に完全施行。入契法第12条・第13条により、工事費内訳書に材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費を記載する
労務単価・歩掛の明示注文者が材料費等記載見積書の交付を請求する際に、労務費について労務単価・歩掛の明示を求めることは差し支えなく、むしろ推奨される

造園は、この説明会資料で職種として名前が挙がっている工種です。専門工事業団体は日本造園組合連合会と日本造園建設業協会で、両団体が作る標準見積書の様式例は、専門工事業団体が自社の実情に合わせてアレンジして活用できます。つまり造園業者が出す見積書は、今後この第20条の書式に寄っていきます。再下請分の法定福利費は様式7で集計して提出します。

最後に値引きです。国土交通省の令和8年2月17日の報道発表資料は、公共工事設計労務単価には事業主が負担すべき人件費(必要経費分)は含まれていないと明記し、よって下請代金に必要経費分を計上しない、又は下請代金から値引くことは不当行為です、と断言しています。同資料によると、今回の改定で全国全職種単純平均は前年度比4.5%引き上げられ、必要な法定福利費相当額を加算するなどの措置を行った平成25年度の改定から14年連続の引き上げにより、全国全職種加重平均値が25,834円となり、初めて25,000円を超えました。

値引き交渉|不当行為になる線とならない線
持ちかけ方判定根拠
法定福利費の行を消して総額を下げる不当行為必要経費分を計上しないことに当たる(国交省 報道発表資料)
下請代金から必要経費分を値引く不当行為同上
労務費だけを削って総額を下げるよう求める不当行為になりうる第20条6項=注文者は著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない
相見積りで労務費等が著しく下回る業者を選ぶ避けるべき改正建設業法の運用方針33
材料のグレードや樹種を変える問題なし労務費ではなく材料費の交渉
数量・面積を見直す問題なし工事規模の変更であって単価の切り下げではない
工期を延ばして人工数を減らす問題なし工程の組み替え。ただし日数の記載は第20条1項の対象
繁忙期を避けて発注する問題なし業者の稼働率に寄与する交渉

諸経費の行についても触れておきます。法定福利費は労務費に率を掛けて出すのに対し、諸経費は現場管理費や一般管理費をまとめた行で、率の母数が会社ごとに違います。この母数の違いと、諸経費を分解して読む方法は項目を積み上げて見積額を作る計算機の解説に譲ります。諸経費に混ざりやすいのは、先に述べた現場代理人や主任技術者の法定福利費、そして本店経費です。法定福利費の行が立っている見積書でも、現場従業員の分は諸経費側に入っているので、両方を合わせて初めて社会保険の実態が見えます。工期が長い工事では、諸経費は日数に比例して膨らみます。工期から日数を逆算する計算機で、工期を1日縮めると諸経費がどれだけ動くかを確かめてから交渉に入ると、労務費に触らずに総額を下げる道が見つかります。

  1. 1. 様式を見る

    材料費と労務費が別行か、材工共の一行かを確認する。材工共なら、搬入・養生・撤去・廃材処分が単価に含まれるかを必ず聞く。

  2. 2. 法定福利費の行を探す

    行があれば、労務費に対する率を割り算する。16%前後なら令和8年度の事業主負担率と整合する。行が無ければ、諸経費に含まれているのか未加入なのかを確認する。

  3. 3. 人工数と歩掛を照らす

    数量×歩掛で人工数が妥当かを検算する。第20条1項は工程ごとの日数の記載も求めているので、日数が出ていない見積書は書き直しを依頼できる。

  4. 4. 著しく下回る金額を警戒する

    相見積りで一社だけ突出して安い場合、法定福利費か安全衛生経費か建退共掛金のいずれかが削られている可能性が高い。第20条2項の「著しく下回」に当たるかどうかで見分ける。

  5. 5. 値引きは労務費以外で交渉する

    材料のグレード、数量、工期、発注時期。この四つは不当行為に触れずに総額を動かせる。法定福利費と労務単価は削らない。